古くから染料や漢方薬として用いられてきた「青黛(せいたい)」が、国が指定する難病である潰瘍性大腸炎の治療に高い有効性を示すことが、慶應義塾大学医学部を中心とした多施設共同の臨床研究によって明らかになりました。
この研究成果は、既存の治療法で十分な効果が得られなかった患者にとって、新たな治療の選択肢となる可能性を秘めており、大きな注目を集めています。
潰瘍性大腸炎とは? 寛解と再燃を繰り返す慢性の炎症
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に原因不明の炎症が起こり、びらん(ただれ)や潰瘍ができる病気です。
主な症状として、頻繁な下痢、血便、腹痛などがあり、症状が落ち着く「寛解」と、悪化する「再燃」を繰り返すことが特徴です。
治療は、5-ASA製剤、ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤などが用いられますが、これらの治療が効きにくい、あるいは効果が弱まる患者さんも少なくありませんでした。
臨床試験で示された青黛の優位性
慶應義塾大学などの研究グループは、中等症以上の活動期にある潰瘍性大腸炎の患者86名を対象に、プラセボ対照ランダム化比較試験で青黛の有効性と安全性を検証しました。
研究では、患者を4つのグループに分け、カプセル化した青黛(1日0.5g、1.0g、2.0g)もしくはプラセボ(偽薬)を8週間にわたって経口投与しました。
その結果、投与8週後の有効率(症状の改善が見られた患者の割合)は、プラセボ群が13.6% であったのに対し、青黛を投与した群では用量に応じて69.6%から81.0% と、統計学的に高い有効性が示されました。
さらに、症状がほぼ消失した状態である「臨床的寛解」や、内視鏡で見て大腸粘膜の炎症が治癒している「粘膜治癒」を達成した患者の割合も、青黛群がプラセボ群を大きく上回りました。
なぜ青黛が効くのか? 作用メカニズムの解明も進む
青黛が潰瘍性大腸炎になぜ有効なのか、そのメカニズムの解明も進んでいます。
青黛に含まれる有効成分(インジゴ、インジルビン)などが、免疫細胞などにある「芳香族炭化水素受容体(AhR)」というセンサーを活性化させることが鍵であると考えられています。
AhRが活性化することで、過剰な免疫反応や炎症が抑制され、腸管の粘膜を保護する働きが促進されることが示唆されています。
これは、現在主流となっている治療薬とは異なる作用機序であり、これまで治療が難しかった患者さんにも効果が期待できる理由の一つです。
安全性への配慮と今後の展望
今回の臨床試験では、重篤な副作用は報告されませんでしたが、一部の患者で軽度で一過性の肝機能障害や頭痛、腹痛などがみられました。
一方で、医師の管理外で患者が自己判断で青黛を過剰摂取したケースで、心臓から肺へ血液を送る血管の圧力が異常に上昇する「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」という重篤な副作用が報告されています。
今回の研究は、あくまで専門医の厳格な管理のもと、8週間という短期間で行われたものです。
研究チームも、患者の自己判断による青黛の使用は絶対に避けるべきであると強く警鐘を鳴らしています。
今回の研究成果は、潰瘍性大腸炎治療における大きな前進と言えます。
今後は、長期的な安全性と有効性の検証、そして誰もが安心して治療を受けられるよう、医薬品としての承認や保険適用に向けたさらなる研究開発が期待されます。